比較的安全な地域も多いイギリスだが、刃物による犯罪は世界的に見ても多く、社会問題となっている。
イングランドとウェールズにおいて、2020年9月までの1年間に警察が記録した「ナイフや鋭利な道具を使った犯罪」は、47,119件だった。
首都ロンドンでは、今年も半年で既に20人が刃物で殺害されている。2020年に発生した刺殺事件は71件だ。ロンドンの路上では、毎日、平均10人が刃物所持で逮捕されている。
カウンティライン・トレード
イギリスにおけるナイフクライムの多くが、ギャング同士によるものだ。背景にあるのは、ドラッグ市場。ロンドンで問題となっている「カウンティライン・トレード」とは、都市部の売人が、子どもやその他の弱者に、より地方にいる顧客へ麻薬を運ぶことを強要するものだ。
国家犯罪庁の推計によると、1,000以上の「カウンティー・ライン」があり(1年で40%増加)、年間18億ポンド(約2,757億円)の利益を上げている。カウンティライン・ギャングは、主に家庭の崩壊した少年たちを、「金銭」、「名誉」、そして問題を抱えた家庭生活では不足しがちな「帰属意識」を与えることによって、犯罪の世界へ誘い込んでいる。
コカイン使用者による犯罪助長
これらは決して、ギャングや貧困層である彼らだけが起こしているわけではない。中流階級のコカイン使用者が、この暴力的な争いを助長していると言われている。
警視庁のクレシダ・ディック長官は、「裕福なユーザーによるA級麻薬の需要が高まっていることが、暴力的なギャング犯罪の急増につながっている」と指摘している。これは重要な指摘だと思う。コカインなどの薬物については、依存性や健康面での議論が多くなされるが、そういった直接的な影響だけでなく「間接的に殺人に関わっている可能性がある(高確率で)」と考えてみると、また見え方が変わってくるのではないだろうか。
また、科学的・医学的に安全が認められるものについては、合法化を進めることによって、犯罪の減少に繋げられることがあるかもしれない。(個人的な推察で根拠はない)
民族性から見た犯罪率
「黒人がロンドンの路上で殺害される確率は、他の民族に比べて3倍高い」という統計もある。
(この統計は刃物犯罪に限らない)
ロンドンで黒人の占める割合は13%(白人は59.8%)であるにもかかわらず、2019年にロンドンで発生した殺人事件の被害者のほぼ半数が黒人だった。
黒人 | 62人 | 46.7% |
白人 | 48人 | 35.6% |
アジア人 | 21人 | 15.6% |
ラテンアメリカ人・複数の民族性を持つ人 | 4人 | 3% |
2019年ロンドンで殺害された147人のうち135人の民族性
慈善団体「Action on Armed Violence」(AOAV)より
なお、黒人の犠牲者62人のうち、92%(57人)が男性だった。さらに、黒人は「殺人罪」で有罪になる確率も、4倍高いとされている。
「黒人が怖い」という話ではないので、注意してほしい。
犯罪について、傾向とパターンを分析することは、社会を適切に見るために必要なことなのだ。「なぜ、多くの黒人男性が、若くして暴力犯罪に巻き込まれるのか」。ここがポイントとなることが分かる。
・・・
暴力的な犯罪の背景の多くに、貧困、適切な教育の欠如、崩壊した家庭環境がある。これは、一部の民族や属性による責任とされるべきではなく、社会全体の問題なのだ。ロンドンにおける黒人による犯罪率を取り上げたが、暴力的な犯罪は、白人の労働者階級でも問題となっている。
ギャング文化に関わる若者を支援するための非営利団体の創設者であるシェルドン・トーマス氏は、「イギリスのほとんどの地域には白人ギャングがいて、彼らは黒人の子どもたちと同じような背景を持っている」と言っている(トーマス氏は、自身も元ギャングメンバーである)。
注目すべきは、子どもたちの育つ環境、家庭、経済的背景だということが、はっきりと見えてくる。
次回の記事では、この悲惨なナイフ・クライムの現状を、もっと社会の関心事にしよう、と立ち上げられた、ある巨大なアートプロジェクトについてお伝えする。
Sources:
The Sun: London stabbings 2021 – latest news on knife crime, attacks and statistics
The Independent: Black Londoners three times more likely to be murdered than other ethnic groups, figures show
Manami
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